Aカップの人が下着で『自己プロデュース』するために必要なものは?
2015/06/22
『乳房の文化論』(乳房文化研究会 ・淡交社)という書籍を読んでいます。その名の通り、文化論的な視点から見た乳房(にゅうぼう)に関する論考が12本収められた本です。なかなか興味深いですよね。
おもしろそうなテーマばかりですが、私は最初に、『「女子」的乳房 メディアと下着と身体と(社会学者・米沢泉さん著)』の項目から読み始めました。
2014年はブラジャー百周年という記念すべき年である。
という文章を皮切りに始まる論考では、日本のブラジャーの歴史がコンパクトにまとめられていました。また、ブラジャーの歴史は、そのまま、
それを着こなす女性の身体とその持ち主である女性たちの社会意識を同時に探ること
であるとして、女性の身体や下着に対する意識の変遷もたどることができます。少しまとめてみます。
- 1914年 アメリカでブラジャーの特許が認められる
- 1949年、和江商事(現・ワコール)が『ブラパット』を発売。日本のブラジャーの歴史が始まる。
- 1960年~70年代 ブラジャーの色は白・ベージュが大半
- 1980年代 ファッションの時代。空前のブランドブーム。個性的なファッションが求められる。
- 1990年代 ファッション(着る物)だけでなく「着る者」が重視されるようになる。つまり、衣服を着ている身体そのものが「見られる」対象となる。ボディコンファッションの流行。
この辺りから、ブラジャーなどの下着が、衣服の下に隠れた黒子的な存在におさまらず、意識的に身体を『改造』していくためのより積極的な手段になっていったことが、本文から分かります。1992年、ワコールから「胸を寄せ上げて、谷間を見せる」をコンセプトとした『グッドアップブラ』が発売されました。
著者は、このことを、
身体のラインを美しく見せるという考え方は、日本でも洋装化が本格的に進んだ1950年代頃から存在したが、もっと意識的にバストというパーツを自分の思うように見せていくという感覚がここに生じてきたのだ
とまとめています。
「胸は大きいほうが良い」という意識・認識は、一体、いつから、どこから生まれたのだろう?というのは、私自身、ずっと疑問に思ってきたことです。
確か、平面裁断である着物では、胸が大きいと美しく着ることができないため、和装が当たり前の時代では胸は小さいほうが良いとされていたという話を聞いたことがあります。それ以上に、日本の場合は、裸体そのものよりも、着物を纏ったときの美しさに女性美が感じられたため、胸の形や大きさなどには価値が置かれなかったということも何かで読んだことがあります。
こうなると本当にその時代・国の文化論・価値観のお話ですよね。現代ですら、「胸は大きいほうが良い」という価値観は世界共通のものではありません。ただ、現代の日本が長らくその価値観・風潮の下にあったことは、(貧乳クラスタの一員として)実感してきました。
今回、この論考を読んで、「胸は大きいほうが良い」という雰囲気が形作られてきた経緯が少し分かったように思いました。
さて、このように、ファッションを通り越して『身体』そのものがファッション化・見られる対象となっていったことで、胸はより豊かに形よく、美しく作り上げられていきます。ブラジャーを使用して改造するだけでなく、日本人女性のスタイルそのものが実際に理想に近づいていきます。
そして、下着は、
見えてもいい、見せてもいい下着から積極的に見せる、魅せる下着へ
と変容し、
インナー(下着)とアウター(上着)の境界線があいまいに
なりました。
そして、このあたりから、白・ベージュだけだった下着は、カラフルになり、レースや豹柄など、ファッション性の高いデザインが採用されるようになったということです。
これが、1990年代半ばのことです。
これはちょうど、私が中学生~高校生のころ。ブラジャーや自分の胸を意識し始めたころに一致します。そういえば、この時期に確かに『見せる下着』であるキャミソールが大流行したのを覚えています。
「これを着て、外にでていいんだろうか」という不安と、少し大人の世界に足を踏み入れたようなドキドキ感を感じました。(まぁ、その頃もまな板のような胸だったので、キャミソールを着ても胸元が本当にスッカスカして、結局キャミソール一枚で外に出るようなことはできなかったのですが・・・)
著者はここで、インナーとアウターの間で起こった『境界線の消滅』が、コスメでも起こったと指摘します。つまり、スキンケアとメーキャップの境界線の消滅です。
本来、見た目を美しく変容させるための『メーキャップ』にも、顔そのものの状態を整えるための『スキンケア』の効果が(美容液配合のファンデーションやコンシーラーなど)求められ、逆にスキンケアにはメーキャップ効果(まつげ美容液やうるおい感を増すリップなど)が期待されるようになりました。
私も美容関係の仕事をしているので、この『境界線の消滅』は日々肌で感じています。
美容業界は『スキンケア』と『メーキャップ』の両方を取り込んだ商品を開発しようとしたり(実際には、この二つの『いいとこどり』をするのは難しいのですが)、その『境界線の消滅』を大きなメリットとして謳っています。
また、化粧品を使用するユーザー側が期待するのも、スキンケアとメーキャップの機能が融合したものであることが多いです。
この傾向を私はこれまで、科学技術が向上し、便利なものがどんどん溢れる中で、人の抱く期待や願望が高ぶりすぎた結果だと感じていました。作る側・使う側の両方で、夢を見ているような印象です。
一方で、メイクに頼らない『素のままの自分』と、メイクをした後の『手の施された自分』のどちらを、人は『自分の美』ととらえるのか?どの状態を『理想』と考えるのだろう?ということも、ずっと考えてきました。
著者は、これを、『自己プロデュース』だと定義します。
自己プロデュースとは「魅せたい自分」になることだ。
黄金比というあるべき顔や身体に出来る限り近づけることではない。正解はひとつではない。
毎日いろんな私になる。
コスメも、ファッション化したインナーも、この『自己プロデュース』のための道具であるということです。
つまり、『自分の美』そのものにたくさんの種類があり、その日その時々で手に入れたい『美』が異なるということです。
コスメで言えば、ノーメイクで素肌の美しさを楽しみたい日もあれば、メイクで可愛らしい自分を演出したい日もある、大人っぽく知的に見せたい日もある。
ブラジャーであれば、胸を強調したい日もあれば、目立たせたくな日もあり、セクシーに決めたいときもあれば、清楚さを楽しみたいときもあるということです。
このようにして、下着・ブラジャーは女性にとって、コスメと同様に、ファッション化し、自分を楽しむためのツールとなりました。
『自分を楽しむ』ことを著者は『私遊び』という言葉で表現していますが、この感覚は、私自身よく分かります。
メイクやネイル、アクセサリー・洋服などは、仕事で身に着けるもの、同僚と遊びにいくとき、一人のとき、趣味の似た友達と遊ぶとき。都会に行くとき、アウトドアに出かけるとき。TPOに合わせて、選ぶものが変わります。
これは意図的にそう選択をして、「魅せたい自分」「なりたい自分」を切り替えているという自覚があります。
ただ、下着については、というと、自分を演出するほどの積極的な選択を私は行ってきませんでした。
もう繰り返しになりますが、Aカップサイズのブラジャーは本当に種類が少ないので、ファッションとして楽しめるほど選択肢がなかったし、底上げで胸を大きく見せること(いわば、胸のメイキャップ)も、何か違和感があって続けられませんでした。
「自己プロデュースしたい」という現代の日本人女性の感覚に共感し、実際にそのような行動をとりながら、下着を用いた身体の自己プロデュースの部分だけが満たされていないように感じます。
胸を大きく見せたい日があってもいい、目立たせたくない日があってもいい、着心地やリラックス感を重視したい日もあれば、特別なレースで自分の身体を飾りたい日もあっていい。
そんなさまざまに変わる自分の気分や感覚を埋めてくれるものを、自分が欲しているんだなぁということを、今回の論考を読んで改めて感じました。
「胸にボリュームがない」「アンダーバストが細い」「ランジェリーは好きだけど、デザインとサイズで納得のいくものがない」という理由から、2015年『大人の女性のためのSサイズランジェリー』の商品開発を始めました。(詳しくは自己紹介ページをご覧ください)現在も、日々研究&開発進行中です!
ただ、商品開発を進めれば進めるほど、考えれば考えるほど、マニアックな商品で(笑)、ときどき「本当にこんなもの、私の他に欲しい人がいるんだろうか・・・」と不安になることがあります。実際、『Sサイズランジェリーが欲しい大人の女性』は世間から見ると圧倒的に数は少ないと思うので、なかなか要望を拾うことができません。
でも、だからこそ、私と同じような体形&気に入るランジェリーがなくて悩んでいる方のご意見をいろいろ伺い、商品開発に生かしていきたいと思っています。
ですので、もしご興味がありましたら、ぜひTwitterフォロー(@rs_lysblanc)や「いいね!」などで反応をいただけると励みになります!ささいなことでも、お声など聞かせていただけるとさらに嬉しいです!
商品が完成したら真っ先にブログやTwitterでお知らせします。どうぞよろしくお願いいたします。
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